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「お前はもう終わったんだよ。」
「お前なんかもう誰も相手にしねぇよ、帰れ!」
「お前は・・」あーうるせぇムカつく。俺は終わっただと?冗談じゃねぇんだよ。
俺はまだ生きてる。
頭の中に並ぶ忌まわしき声。それが誰と誰のものなのかはっきりわかるほど記憶はしっかりしていた。だから余計腹が立つ。今は訳あってアメリカの地で行きずりの男達と一緒にカーチェイスなんぞを始めている訳だが、俺は元元がこんな人間なわけではない。
「てっちゃんが先頭に立つとなんだかわかんないけど上手くいくよね〜」
窓際の一番後ろの席でキャッキャと騒ぐクラスの何人かの女子。
別に表立って話しかけてくるわけではなく、ただ俺の側で俺の話をする常習犯たちだ。
「えぇー、そんなことないって」
別に俺だって張り切って彼女たちと話したい訳じゃない。
ただ俺の席は真ん中の列の一番後ろで、どこか友達の席におしゃべりに行くわけでもなく席に座ってるんだからなんとなく会話を返してしまう。
そうすると、彼女達は待ってましたとばかりに俺を話の輪に引きずり込むのだ。
「あるよ〜、今日だって音楽会でてっちゃんが指揮したら金賞とれたじゃーん」
「ってゆーか、あれ運だから。俺別に適当にやっただけだし」
「てっちゃんの適当ってかなり完璧だよねーいつも」
「そうだよー、他の男子が同じ事やったってできないって」
「俺的には他の男子とあんまり変わんないと思うんだけどなぁ〜」
そうは言っても俺自身、他の男子より目立っているとは思う。
昔から顔を「良い」と「悪い」に大別すれば俺は「良い」の部類に入ってきてたのだが、最近「一番良い」になりたくなって、化粧はしないまでも髪の襟足部分を少し伸ばしたりとか、制服をある程度着崩してみたりとか、そこらへんの男子よりはお洒落に気を使ってるつもりだから。
おかげで同性の友達は異様に少なかったけど、あんまり欲しいとも思わなかったし。
むしろ女の子の方が何でも話せる気がした。
だから当時からの俺の夢を知ってるのは何人かの仲良しの女の子だけだ。
「ねぇ、俺がギター弾けるって言ったら聞きたい?」
「うっそ、てっちゃんギターも弾けるの?」
「えぇーーすごーい、聞きたい聞きたい」
「いや、まだ買ったばっかりで弾けないんだけど、たぶん弾けるようになる」
「うわっ、なんかラシイね、その発言」
「でもてっちゃんなら弾けるようになりそー、そしたら私にもちょっと教えてよ」
「うん、いいよ。簡単なコードだったら今でも教えられるんだけどねぇ、弾いていい場所がないよね」
「確かに・・・」
「でも、もう弾けるじゃんその発言だと」
「あ、バレた?」
ケタケタと笑い声は教室内を木霊する。
コードを2,3押さえる事ができただけで弾けるなんてよく言えたものだが、まぁこの時は「俺はギターが弾ける」と思った。
そして、そんなに難しくないことを知った。
やっぱり俺は将来スターになる。
日本のポップスターじゃなくて、もっとデカくなる。
目指すは全米のロックスターだな。
ギターを弾きながら歌も練習して、一通り弾き語りができるようになった頃始めて作詞作曲にチャレンジしてみた。
まぁ、最初からそんなにすごいものができるはずもなく、友達に聞かせても自作の曲ってのが物珍しいから「すごいじゃーん」とは言ってくれるけど、曲の良し悪しに対しての反応は無かった。
このことが後の俺を作る大事な出来事となったのは今でもよく覚えてる。
だってこの時内心で物凄く焦ったからね。
ちゃんと勉強して、作ってみて駄目だったら駄目だな。
背水の陣を敷いて作った曲は自分なりには良い曲だと思ったから、例のダチも呼んでみる。
「どう?駄目?」
「・・全然、OKっしょ?」
「OK?マジ?」
「うん、超OK!プロっぽいって、てっちゃん!」
それを期にレコード会社にテープを送ってみて、見事に通過。
『渋谷系現役高校生この春衝撃のデビュー!!』
「これでいきましょう、どうですか?」
「どうって言われても・・・」
「我が社をあげでバックアップ致します、タイアップは任せてください」
「ファーストはこの曲で、セカンドはこれよりさらにハイスピードのあの曲で・・・」
「あの、ちょっと待って頂けませんか?」
通過したはいいんだけど、これじゃあまりにもそこらへんのアイドルの2の線ではないか?俺がなりたかったのはなんだ?
冷静になって考えれば考えるほど、俺が描いていた世界とは掛け離れているように思えた。
全米のスターになる為のステップと考えればオイシイ話してはあるけど、日本の低レベルな音楽業界では大して勉強になることはない気がする。
「あの、俺、やっぱり辞退します」
「えっ、ちょっと待ってよ君。カッコイイし才能もあるし、君なら売れるって」
「そうですね、僕は売れますよ。だけど今の日本では売れなくてもいいですって言ってるんです」
「な、なに言ってるんだ君は、じゃあどこで売るんだ韓国か?」
「アメリカです。僕はアメリカでスターになりますから。さっきの宣伝文句は他の人にでも使いまわしてください」
口をポカンと開けたままのレコード会社のスタッフがちょっと滑稽だった。
たかが高校生に言いくるめられるなよいい大人が。
だから日本の音楽業界は低レベルなんだよ。
使いまわしの聞くような売り文句で俺を売ろうなんて百年早い。
なんの伝手もなく、一人渡米してきて苦節5年。
如何わしいBARで歌い始めた俺は24歳のある日本当に全米の大スターになっていた。
「今や飛ぶ鳥を落とす勢いですね」
「アメリカで活躍する日本人と言えばBASEBALLのマツイとROCKSTARのテッチャンだね」
「どうですか?頂点に立った感想は」
もちろん素晴らしい景色だった。他に答えようがないほど言葉はなかった。
なにしろ今世界中で目立っているんだから。
目標に到達すると足下が見えにくくなるという話があるが、そんなのは嘘だと思ってた。ちゃんと一人でここまで登ってこれたんだからこれからもまだ登る道がある、俺はちゃんと見えてる。
つもりだった。実際は何も見えてなかった。いや、今にして思えば全部が見えてるという状態を知らなかったのだ。
気がつけば信じていた奴等が足を引っ張り出していた。変なスキャンダルのせいで人気も落ちた。絶対売れるはずの曲が売れなくなっていった。
そして時代は流れたのだと回りに宥められるようになり、誰も俺の存在に見向きもしなくなっていった。浮き沈みの激しいこの業界で、沈んでいく奴に構ってられるほど暇な奴はいないのだ、と。
でも俺はまだ終わっていない。
俺はまだここにいる。
そうだ、俺は諦めが悪かった。
「もう一度CDを出させてくれ」
稼いだ金を使ってありとあらゆる手段で再起を賭けた。
けどやっぱり世間はそう甘くない。
「テッチャンはもうあの時の輝きがないよ」
言われてみればそうかもしれない。
金がなくて、精神的余裕もない。
お洒落をしても小洒落たそこらの兄さんに見える。
うまく回らない歯車をうまく回そうとしたって空回りするだけだ。
「財布の中身もあとわずか、か。本当に堕ちたな」
そしてとりあえずHEVENS DRIVEへ行った。
久し振りに何も考える事なく楽しい思いができるように・・。
「はいどぉ、もっとスピード出ないの?ずっと警察ついてくるんだけど。」
「えぇ〜無茶言わないでよ、今何キロ出してると思ってんのてっちゃん。」
「さぁ?」
「っていうかさ、どーでもいーじゃんドンペリいこうぜ。」
相変わらずなけんちゃんの楽観的な性格に車内は苦笑じみた笑いが巻き起こる。
「俺けんちゃんのそういうとこすげー好き。」
「だろ?ユッキー良いこと言ったから一番ね。」
ドボドボと問答無用な感じで注がれたドンペリを受け取り一瞬このまま飲むのだろうか?と躊躇するユッキー。その間にもコップはてっちゃんとけんちゃん本人に行き渡る。
「僕のはないの?」
「ハイドは飲酒運転になるから却下。」
若干意気消沈気味のハイド。
「ふぅ、死神のイジワル。」
「ねぇこれ、このまま飲むの?なんか割らないとキツくない?」
ユッキーの疑問はテツの声から発せられたが当の本人といえば・・。
「あーうまいっ、さいこーー!」
もう既にそのまま飲んでいた・・。