最高のフィナーレを迎えることになってしまったいきさつはまだ誰も話してなかったから代表してリーダーの俺、テツが話しておく。

出会ったその日に意気投合した四人は勢いだけでHEVENS DRIVEの売上金数万ドルを奪って逃走した。ここまでは前述した通りだから省略するとして。この後俺たちは奪った金を仲良く山分けした。で、実はここで一度解散しているのだ。さすがに飲んだり喋り続けたり揚げ句の果てに犯罪までやってのけた俺らは一同疲労困憊だった。人間の三大欲求のうちの最後の一つ「睡眠」をとらなければ生きてはいられない状態だったのだ。場所は自宅だったにしろ街の公園だったにしろ各自眠った、はずである。少なくとも俺は気絶するかのように寝た。

目が覚めたのはもう夕方も終わる時間。

寝ぼけた頭でテレビをつけるとちょうどニュース番組が放送されていた。

最初はペットボトルの水を軽く口に含みながらボケッと見ていたがローカルニュースになり頭はようやく回転し始める。

「昨夜未明、ニューヨーク三番街のバーで強盗事件が発生しました。従業員の話によると閉店の準備をしていたところ突然客だった四人組の男に襲われ、その日の売上金およそ1万ドルが店内から盗み出されました。男達は今なお逃走中です。」

「これ、俺等のことじゃん。あ、ユッキーとか微妙にテレビ映ってるし、あははは」

なんとなく可笑しく思えて笑いが止まらない。

側にある剥き出しの札束を撫でながらそのままお腹が痛くなるまで笑い続けた。

「あははははははは・・・あ〜疲れた。そういえば腹減ったな」

自宅の冷蔵庫がもう空っぽなのは分かっているから見向きもしない。

「やっぱり外に出るしかないよな。」

自分が強盗犯であることをわずかに意識して外に出るのが億劫になったが、どの道札束は紙だ。食える訳ではない。

「だりぃ〜・・」

昨日と同じ格好というのは流石に気が引けるので着替えて、寝癖を直し、家を出た。

札束は持ちきれないので半分しか持ってきてないけど食うには十分だ。

俺は元々金が欲しかったわけじゃない。


「どこ行こうかな?」

考えてみれば一人でご飯食べるだけなのにわざわざ豪華なレストランへ行くのは面倒なことだ。かと言って特別に贔屓の店があるわけでもない。

「そういえば皆はどうしてるかな?」

昨日出会ったとはいえこの札束を分け合った仲だ。

一人捕まれば皆捕まってしまう確率は高くなる。

気になるのはむしろ当たり前だろう。

俺は無意識のうちにHEVAENSDRIVEへ足を向けていた。

たどり着いてみれば何のことはなく昨日と同じ場所にけんちゃんが居て、ほどなくしてハイド、ユッキーの順で姿を現す。四人集まってしまえばもう昨日の続きである。日本の言葉に置き換えるならばドンチャン騒ぎって奴だろう。純粋に楽しかった。昨日会ったとは思えない、まるで昔からの仲間みたいで、居心地が良かった。

繰り返される朝。

繰り返される台詞。

「このまま、はいサヨナラまた明日。なんてつまんないよな?」

皆の顔は完全に綻んでいた。待ってましたとばかりに話は膨れ上がる。

「この時間なら銀行の警備員だって眠くてしょうがないはずだしさ、思い切って行ってみようよ。」

「おーいいねいいね、皆が出勤すら前なら人が少なくて楽そうじゃん。」

「まさに空き巣だね。」

「よし、じゃ善は急げだ、行ってみよう。」

ケン、ユッキー、ハイド、テツ。それぞれがノリ良くヘブンズドライブを飛び出していく。

途中、小型パソコンを奪うため24時間営業のインターネット喫茶を経由し、いざ大手銀行前。

「へぇ、けんちゃんって頭いいんだね。」

三人が関心する中黙々とハッキングを進めていくケン。この時ようやくけんちゃんが国立大卒の医者であると納得させられた。

「まぁざっとこんなもんでしょ。とりあえず裏口のロックは解除した。それから赤外線セキリュティシステムも一時的に止めた。その他厳重なシステムにはウィルスばら蒔いちゃったから回復プログラムを組まれるまでは混乱してるはず。」

「んー難しいなぁ、とりあえず俺は真っ先に突っ込んで裏口の警備員ぶっ倒しとくから、後から誰か指示ちょーだい。」

血が騒ぐのかただ単に落ち着いていられなくなったのか車から降りて兵隊らしく特攻をかましはじめるユッキー。

ここでユッキーもまた一兵であったことを思わされた。

「ハイドさぁ、悪いけど正面に車止めてから俺たちを追ってきてよ、裏口側にある赤外線システムはあくまでも一時的に止めてるだけだから、もしなんかあった時はもう裏口は使えない。正面の非常ドアこじあけて車に乗り込むから。」

「おっけー。」

ハイドを車に残し、俺たちはユッキーの後を追った。

「なんかすげー行き当たりばったりの割にはうまくいきそうだな。」

「うん。」

「・・それだけ?らしくないねけんちゃん、なんか不安なの?」

「・・俺、金庫には何も細工してないけど、開くかな?」

駆け足は止まることはなかったが会話は止まる。今更失敗を恐れて引き返す訳にはいかないけど、いよいよ無計画な俺たちの本領が嫌な方向に発揮されてしまった気分だった。

「けんちゃんなんで肝心なとこ何も細工しねぇんだよ、全然駄目じゃねぇか。」

「しょうがないじゃん、金庫だけはハイテクな設備だけじゃないんだもん、数字合わせみたいなロウテクはパソコンじゃどうにもなんないよ。」

「あ〜〜〜っ!」

言葉にならないで気持ちだけが慌ててる。焦りは禁物だ。


ユッキーは相当張り切ったらしい。

俺達も道中そんなにノロノロと走ってきたわけではないのにユッキーにはなかなか追いつかなかった。

「まぁ警備員の倒れている方へ走っていけばいずれ追いつくからね」

「それはいいけど、ちょっとグロいって。血の匂いが充満してるし、俺気分悪くなってきた。」

「まぁいーんじゃん、隊長は体調が優れないってことで」

「けんちゃんそれ寒いって」

「うひゃひゃひゃひゃ、ちょっとハイドの真似してみた」

「うわっ、自分が外したのを人の所為にしてるよ、けんちゃん嫌なやつ〜」

「うひゃうひゃうひゃ」

場に似つかわしくない笑い声が耳についたのかユッキーの方から姿を現した。

「けんちゃんの笑い声ってわかりやすいね、俺半歩後ずさりしちゃった」

「ただの馬鹿笑いだと思うけど」

「てっちゃん今ね、自分をネタに寒い事言われたからムッとしてんだよ、あひゃひゃひゃ」

「いい加減真面目な発言をしろ、次はどっちなの?」

「ん?あっち」

適当に指差してるとしか思えない手振りなのだが、それでもこの銀行内部の図面を見てるのは彼しかいないので信じる他ない。横脇にライフルを構えたユッキーを先頭に一路大金庫を目指す。

しかし思うように大金庫は見つからなかった。廊下も長ければ部屋数もその分多く、ほとんどが小部屋のくせにロックが頑丈で解除しにくい為、時間ばかりを要してしまうのだ。「なんでこのライフルが効かないかなぁ」

ユッキー自慢のライフル銃も音ばかりが派手で銃弾は弾き飛ばされるばかりだ。本人はぼやいてるつもりだろうが、聞いてるほうには十分棘が感じられた。俺だってけんちゃんの指す方向に信憑性を欠いてきたところだが、ブツブツ言いながら一人であーでもない、こーでもないと唸っているところを見ると信じない訳にもいかないだろう。

誰の顔にももはや笑顔はない。

「無計画のツケが回ってきたんじゃねぇか?」

「いや、もう少し走り回りゃ見つかるでしょ、時間の問題だっててっちゃん。」

楽観的な意見だが、そろそろそればかりを採用してる訳にもいかなくなってきた。

にも関わらず、走り回っても体力の落ちないユッキーは一人、前に飛び出始めた。

「え、ちょ、待ってよユッキー」

これでも追いかけてるのだが、どう考えても俺とけんちゃんはペースが落ちていて追いつく気がしない。いっそ足元狙ってピストルぶっ放すか?と物騒な事も考えたが、それには至ることなく無事追いつくことができた。なぜなら・・・

『ウィーンウィーンウィーン・・・・・』

「警報機鳴ってんじゃんっ」

無事では済まなくなった事態に再び三人は集合したが、行くべき方向が指されない。

道しるべが無ければバラバラになって捕まるのがオチだ。

焦りから足踏みの音が大きくなる中、けんちゃんが「あ〜なるほどね」と納得気な顔を見せる。

「何が?わかるように早く説明してよ」

「うん、あのね、俺一応セキリュティシステムの解除に時間が掛かった場所からドアのロックを解除していったんだけど、どうやらそれが間
違ってたみたい。この銀行は本物だったわ」

「えっ?全然わかんないよ」

「セキリュティがダミーだったんだよ、何もないところを怪しいと見せかけて探させる。そのうち強盗は金庫が見当たらない事に苛立ち始めいい加減に探し始めたところで解除してなかったセンサーに引っかかって警報機が鳴る、と。通りでシステムが似通っててウィルスにかかりやすいと思ったんだよね、わざとやってたとはお流石の一言だ。」

頭の痛い話に苦笑いを噛み締め、先を聞く。

「でもおかげでこっちとしても大金庫の場所がわかりやすくなった。警備の甘い場所の方が怪しいってわけよ。もっともその甘い場所に行くための抜け穴が狭いだろうけどね。」

喜んで良いのか悪いのか、けんちゃんの発言は複雑だ。

依然鳴り響く警報ベルの中を走り、俺たちはなんとか大金庫の前までたどり着いた。

4桁の暗唱番号を入力してから金庫のダイヤルをうまく回すと開く仕組みらしい。一瞬考えたが考えて暗唱番号がわかれば苦労しない。

「ユッキー、この暗唱番号のパネル、撃っちゃって。」

「はいよ。」

パパパンと見事に粉々になるパネル。

「なんか脆くないコレ?」

今までのドアのロックより簡単に壊れて拍子抜けしたが、それも一瞬。ここで最大の難関であるダイアル回しが待っていることに気がつく。

「これで金庫のダイヤルも壊れてくれれば万々歳なんだけど、そんな上手く行くはずないよねぇ。」

右に左にクルクルダイヤルを捻る俺。そんな漫画や映画じゃあるまいし。と思いながらも、開くことを願ってガチャガチャいじる俺。

「てっちゃん早く。」

「無茶言うな。」

「無茶でも急げ。」

「だぁかぁらぁ〜・・。」

俺も急いでんだよ、と言おうとして、俺じゃないのんびりした声が耳に割って入る

「おーい、みんなヤバイよぉ、警察が俺たちを現行犯で捕まえようと突入してきてる。」

「うわぁ、とうとう追いつかれたかぁ」

「でもここ最深部だし、逃げ場ないけどどうする?」

「何してんの、早く金持ってズラからないとっ!」

チャキンっと小型拳銃を仲間に向かって笑いながら構えられるとちょっと別の意味でできた恐怖心と言うものが芽生えるらしい。

「ハイド怖いって、早くしまえよアホ」

「ん?」

「ん?じゃない、拳銃だよ拳銃」

けんちゃんが両手をあげ顔をひきつらせてる隙にユッキーが強制奪回に成功し、歓喜と狂喜に満ちた顔は多少無邪気さを取り戻す。

「こえぇ〜」

心臓を押さえながらつぶやくけんちゃんの背後では以前ダイヤル回しが行われていた。

「てっちゃんまだ〜?」

「それより、ハイドって何の病気だっけ?」

「心臓病」

「お前心は心でも精神の病気とかじゃないの?」

「いや、僕生まれつき右心房と左心房の間にある弁が普通の人よりも薄いからまともに機能してくれなくて・・」

「あぁあぁなんとなくわかった、血液を送り出すポンプの出来が悪いから人並みに動かすのも相当のエネルギーが必要になるってことか」

「・・てっちゃんまだ〜?」

ユッキーが二度目の催促をした気持ちはわからなくもない。

真面目に聞いてもわかるかわからないかの難しい話をこの緊迫した状況では聞く気も起きない。

(だからって開かねぇもんは開かねぇんだよ)

万事休す。

それでも腹を空かせたガキが母親の料理の完成を待つように「まだ〜?」を連呼されては投げ出す訳にもいかない。

額から冷たい汗が滲み出てくる。

ダイヤルを回す右手も脂ぎってしまって右へ左へ思うように回らない。

「この野郎、開けっつーの!」

最後の思いを託して思い切り左方向へ捻ったダイヤルはものの見事にある数字で緊急停止した。

「カチャッと言ったよね今?」

誰に言うでもなく、金庫に向かって囁いた言葉を金庫自体が聞いていたらしい。快く扉を開けてくれる金庫。

「お、さすがてっちゃん、やっぱリーダーだね。」

にんまりと笑みを浮かべて金に近付いてくるけんちゃん。

「本当に開くとはね、てっちゃんて運がいいよね。」

のそのそと目的のブツを見にくるユッキー。

「さすが元スター、お疲れさま」

俺の肩をポンっと叩いてから、前の二人によって早速詰められた金袋を閉じるハイド。

確かに一介の日本人ミュージシャンの卵が全米でスターの座まで駆け上がったんだから実力もさることながら運はいいに決まってるんだけど。

「元は余計だ。」

なんだか金庫を開けることに気力を使い果たしてしまって、金に執着心がわかない。見張りと称して皆に背を向けながらしばし休憩をとることにする。

熱くなった体温を冷ますべく目を閉じてゆっくり深呼吸して・・

『パパン、パン!』

遠くのほうでかすかに聞こえたのは銃声か?

あれだけじゃ近づいてきてるのか、脅しかも区別がつかない。

皆は相変わらず嬉々とした顔で金を漁っているから何も気がついてないんだ。

でも俺の直感はこう叫んでいた。

「そろそろ逃げよう、これ以上いたら全員監獄いきだ」

「・・・」

俺の言葉が皆の言葉を飲み込んでる。

本当はまだ大丈夫かもしれない。

金も詰め終わってないのに逃げるなんてもったいないかもしれない。

でも今は信じて欲しかった。

例え根拠の無い言葉でも。

「うん、わかったよ」

「はい、リーダー命令が下しました、逃げましょー」

「りょーかい」

そうと決まれば皆行動は早い。

金を分担して持ち、いざ出発。

走ると壊すを繰り返して無理やり防火シャッターを下ろし、追っ手の足を止める。そしてまたもやスプリンクラーの誤作動。

「てっちゃん、縁起の良い雨が降ってきたことだし、逃げ切れそうじゃない俺たち。」

「あぁ、後は正面入口からうまく車に乗り込めばいいだけだ。」

幸いな事に俺達は警察に捕まることなく無事に車まで辿りついた。

それは俺達が目茶苦茶やって警察の手を煩わしたから、静かな廊下を走ってこれたのだと今の今まで信じていたのに。

「嵐の前の静けさだったんだねぇ」

ハイドが少し残念そうに言う。

「まぁ車をマークするってのは常套手段だけどな」

俺は両手を上げながら無表情に言った。

そう、俺達は車共々360度銃口に囲まれていたのだ。

 


終章

「あ、なんか遠くのほうに黒い影が見える。」

ずっと陽気に歌い続けていたハイドでも、その時はドライバーとしての意識が働いたらしい。真っ先に見つけた黒い影は皆でよく目を凝らすと機動隊の集団であることがわかった。ザザザッと機械的にライフル銃を構える姿がよく見える。今回ばかりは向こうも真剣に俺たちの暴走特急を止める気らしい。

「いよいよ?」

悪戯に高いテンションのけんちゃんを皮きりに皆口々にいよいよだな、と漏らし始めた。だけど誰一人として暗くなってる者はいない。死に対する恐怖なんて、そんな感情はもうとっくに持ち合わせちゃいないのだ。むしろ思い出されるのは楽しかった昨日今日のことばかり。

「俺、今、人生で最高の気分だよ。」

ぐっと伸びをしながらその瞬間を待つユッキー。

「僕もすごい良い気分、このままだと笑ったまま逝けそう。」

本当にご機嫌で笑いっ放しのハイド。

そしてここにももう一人、胸の高揚感を押さえ切れず、瞳をキラキラ輝かせている人物が。「まぁけんちゃん、そう焦らずとも俺らはいっぺんに消え失せることになるんだから。」

「だって楽しみすぎてワクワクドキドキって感じなんだもん。」

「まぁわかるけどさ、俺だって最高の仲間達と心中できるんだから。」

迫り来る機動隊の壁。

後ろからもヘリコプターとパトカーが追尾を止める気配なくピッタリとくっついている。

「お前らなんかに捕まってたまるかっつーの!」

いい具合に力の抜けた声でユッキーは叫ぶ

「そうだそうだ、バーカバーカ!お尻ペンペンだっ!」

ふざけてるのかはしゃいでるのか、けんちゃんは相変わらずだ。

「じゃ逝くよ!」

ハイドの声には流石に覚悟の文字が浮かび上がる。


車は機動隊の壁の直前で90度進路変更。

コンクリートの道からはずれ車輪は砂地へ入る。

それでも落ちない過激なスピード。


「来世でまた会おうぜ」

テツの最期の声は皆に届いただろうか?


4人はそのまま天国へと走り抜けた。



-fin-

written by Taeko Syoren

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