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注・作者は猫を飼ったことがない上、知識もありません。(なら書くなという話ですが)
猫の外出頻度、仕草、猫と風呂に入る事が可能なのかということが詳しくわかりません。
つまり、前提が悪いSSということです。
猫好きの方には不愉快(無知は不愉快かと思います)を与えてしまうかもしれませんがフィクションということでご容赦ください。
それ以外の点での質には自信があります(長いだけだという言い方も)
どこかで読んだ事のある話ですが、どうにも思い出せません。



昼休みの教室の片隅、窓際の席で花桜梨は外を眺めていた。

冬が本格的に近づいてきている事が木枯らしの音でわかるような、寒い日だった。

教室は質の悪い暖房特有の湿気と人が多く集まることによる蒸し暑さでお世辞にも快適とはいえなかった。

騒々しい教室を充たすのは何人かで集まっている集団の笑い声。

昼食を食べたら図書室に行くにも微妙な時間帯になってしまった。

花桜梨のすぐ前の女子の席に何人かが集まり、プリクラの交換をしている。

教室の後ろでは男子がプロレス紛いの事をしている、かと思えば教室の前の方では参考書を開いた男子が肩肘をつきながら勉強していた。

誰かが言った。−「学校は様々な人間を様々なようにしておくようには出来ていない」

放課後になると一気に移動が始まる。

花桜梨は前の学校でやっていたバレーをする気にもなれず、何もしていなかった。

花桜梨が靴を履き替えようとロッカーの前でしゃがむと後ろからスポーツバッグをもった女子の集団がやってきた。

その集団の一人のバッグがしゃがんだ花桜梨の背中に当たり、花桜梨は体勢を崩したがその当てた女子は何もなかったかのように行ってしまった。


寂しくなんて、なかった。


花桜梨はマンションの階段を一段一段登る。

その足音が反響して少しだけ大きく聞こえる。

花桜梨が家に帰っても誰もいない。

花桜梨の父親は商社員で今はアメリカにいる。

先月ニューヨークの中で転勤したらしいけど詳しい事は地名を聞いてもわからないので知らない。

母親も相変わらず編集の仕事が忙しいようでここ一週間は会っていない。

電話での話ではこの先一週間もそんな感じらしい。

元から二人とも家にいる時間の方が少ない。

その傾向は花桜梨が小学校に入学したくらいから顕著になったが花桜梨は特に不自由に思った事はなかった。

花桜梨が鍵を開けて玄関のコンクリートの色の部分で靴を脱ごうとすると、足元に猫が擦り寄ってきた。

「フニャー…」

「こらこら、脱げないでしょ?」

花桜梨はその猫を顔の前まで持ち上げてから、地面に降ろす。

「ニャァ」

それが少し不満だったのか猫はその場でしゃがんで花桜梨を見上げている。

花桜梨が猫を飼い始めたのは小学四年生のときだった。

母親が捨て猫を拾ってきたのがきっかけだったが花桜梨はその猫をとても可愛がった。

その猫はメスでミカという名前だった。

これも花桜梨がつけたものだ。

ミカはあまり体が強くなく病気気味だったということもあるが花桜梨が中学三年、ちょうど高校受験の追い込みのころの冬に亡くなってしまった。

当然花桜梨は悲しんで本当に三日三晩泣き続けた。

今花桜梨の足元で不満げな顔で座っているのは花桜梨が前の学校を退学したあたりにペットショップで買った猫で、花桜梨にとっては二匹目の猫となる。

名前はユウで、今回はオスだ。

ユウの体はまだ若い猫ということもあるが本当に輝くばかりの白毛だ。

当然花桜梨が良く手入れしているということもあるが、まだあまり外に出て行こうとしない性格ということもあるのかもしれない。

花桜梨が敷居を跨いでリビングに向かうとユウは花桜梨の後を追ってリビングについてきた。

花桜梨は自分の飲み物よりも先にユウのミルクを出して少しだけ暖めてユウがいつも使う皿に満たした。

それを見ながら花桜梨はコーヒーメーカーに豆を入れる。

午後4時半のいつもの風景だった。


リビングでどうでもいいバラエティを見ながら花桜梨は時計を見た。

9時。

そろそろお風呂に入ろうと思い、花桜梨は立ち上がった。

ミルクを上げたあとには姿を見かけなかったユウだったが、花桜梨が廊下に出ると対面の廊下から姿を現した。

「ミュー…」

ユウは泥にまみれて少しだけ心地が悪そうだった。

雨上がりだったのでおそらく水溜りにはまったか自動車に泥水を掛けられた、という様子だった。

玄関のカーペットには泥の後がついてしまっている。

「あらら」

花桜梨はタオルをもってきてユウの体と汚れた床を拭いた。

そして花桜梨は自分が何をしようとしていたのかを思い出し、持ち上げながら言った。

「お風呂、はいろうか」

「ニャ…」

ユウはあまり良くないことが起こると言うことが、わかっているようだった。


「フギャーァァl」

「こらこら、大人しくしなさい」

花桜梨がシャワーをかけるとユウは逃げ出そうとして暴れだした。

それを押さえつけて花桜梨はユウの体を洗う。

洗うといってもシャワーで泥を落とすだけで人間用のボディーソープを使うわけではない。

洗うのが終わるとユウは一目散に開いた扉から逃げ出してしまった。

裸で追いかけるわけにもいかないので花桜梨はあとでまた床を拭かなければいけないなと思いながら湯船に浸かった。

天井から雫が落ちて湯船の縁に当たった。


花桜梨は髪を乾かしてリビングに戻りスポーツドリンクを冷蔵庫から出した。

今日は11月の割には暖かい気候だったが、この時間となるとやはり寒い。

花桜梨はスポーツドリンクを仕舞うとさっさと歯を磨いて部屋に戻った。

部屋に入るとユウも一緒に入ってきた。

ユウは花桜梨の部屋にいることが多い。

幸い熱帯魚に興味を示す事はこれまではなく、掃除以外に手間が増えるという事は滅多になかった。

妙に人間慣れしていている点に花桜梨は猫社会でやっていけるのか不安を感じているが、やはり嬉しい存在ではある。

花桜梨はPCをつけて適当にネットを見て回った。

花桜梨が一時間くらいネットをしてからPCの電源を切って振り返るとベッドの上にユウが丸まっていた。

完全に寝る気だった。

花桜梨は仕方ないなぁという顔をしてユウの体をそっと布団の中に入れた。

「おやすみ」

花桜梨はユウを胸の前で抱えるようにして眠りについた。


You hold me tight all to the night…


朝、花桜梨は布団が妙に狭いなという感覚を覚えた。

無意識というか、寝ぼけた曖昧な感覚だったが、それは目を開けて見ると、明らかだった。

少年が布団の中に寝ていたからだ。

しかも花桜梨の手は少年の背中に回り、少年の顔を自らの胸に埋めさせていた。

「!!!!!!!」

花桜梨は悲鳴を上げることも出来ずにベッドから飛び降りた。

そのまま一定の距離を置いてその少年を見直す。

布団の中で寝ているので体ははっきりと見えないが顔は横を向いて寝ているのでしっかりと見ることが出来た。

おそらく10歳から14歳くらいの美少年だった。

人気ロックバンドの「虹」のボーカルにそっくりだったがどちらかというと幼い印象が強い感じだった。

そして肌は透き通るように白かった。

おそらくそれは日本人というよりもむしろ白人の肌であった。

花桜梨は何故自分の布団で外人が寝ているのか寝起きの働かない頭で考えたがあまりにも衝撃的だったのでほとんど思考がまとまらず思わず「あれ?自分が連れ込んだんだっけ?」などの突拍子のない考えまで浮かんでいた。

花桜梨のその戦場のような思考の格闘をよそにその少年はぐっすりと眠っていた。

花桜梨は事情はどうであれコミュニケーションを取らねばならないと思い、「この子アメリカ人とかかな?英語通じるかな?英語なら最低限は…ああ、でもひょっとしたらロシア人かもしれない、もしそうだったらロシア文字とか書かれても全然わからないし警察に届けるしかないかな」という思考を1秒でまとめて、とりあえず起こすことにした。

花桜梨は少年の体を布団の上からゆすった。

「ウウ・・・ン・・・」

少年は眠たそうに目を擦ると花桜梨を見た。

花桜梨を見るとその少年は寝起きにもかかわらず花桜梨のほうに勢い良く飛び掛ってきた。

「きゃっ!」

押し倒された花桜梨は身の危険を感じ、近くにあった通学用鞄の中にある催涙スプレーを取り出そうと押さえつけられた体を捻り思い切り手を伸ばした。

何とか鞄に手が届き、中身を漁っていると少年が口を開いた。

「ニャン」

一瞬のハスキーボイスの直後、部屋は静寂に包まれた。



花桜梨が用意したコーンフレークに顔を突っ込み、白人の少年は勢いよく朝食を食べている。

ユウを布団から出してみると完全に裸だったので花桜梨は真っ赤になりながらも自分のTシャツとGパンを着せた。

ユウは服を着せられるときは大人しかった。

花桜梨はテーブルに肩肘を着きながら食事の様子を呆然と眺めていた。

騒動の直後、花桜梨は少年を二度寝してもらうためにベッドに運び直した。

少年はあっさりと眠りに落ちた。

花桜梨は自分の力が平均以上あることに初めて心から感謝した。

それからもう一度ネットで挨拶や感情表現に「ニャン」とか「ニャー」とか「フニャ」とかある言語を探したが、なかった。

花桜梨はとにかく、頭を落ちつけようと思った。

そしてまず最初に浮かんだことは、少年がどのように侵入できたかという事だった。

両親の配慮で花桜梨を家に置く事が多くなった小学3年ころからマンションにはセキュリティ装置が多く付けられている。

窓から侵入することはもちろん出来ないし、玄関から入るにも二重のロックを解除しなければならない。

最初は管理人なので日本語が話せないこの外人が通過することは出来ないし、大体個々の部屋に入るには指紋照合と鍵が必要だ。外から進入したという事は現実的ではなかった。

自分が連れ込んだという可能性はあり得る。

しかし花桜梨は昨日は普段通りに登下校したし、酒を飲んで出歩いたわけでもなかったし、大体男を連れ込むという行為が自分に似合っているとは到底思えないのでそんなことをするわけがないし、大体したとしてもわざわざ外人を選ぶ理由がない。

現実的な理由は全て否定された。

もっとも非科学的だが結論はあの少年はユウであるか、幽霊であるか、どちらかだ。

幽霊は一般的に接触できないという点を考えると、残ったのは、ユウしかない。

昨日はユウを抱いて寝たということも花桜梨は覚えていたし、朝からその抱いて寝たはずのユウを見ていない。

信じられないが信じるしかなかった。

「ユウ?」

「ニャン!」

口の周りにミルクをつけて少年は振り向いた。

「ユウなの?」

「ニャ!」

ユウは大きく頷いて花桜梨の元に駆け寄ってきた。

そしてユウのように花桜梨の足元に擦り寄った。

普通なら嫌悪感を感じるだろうが少年の目は嫌らしさとかそういう感情を全く窺い知る事が出来ない純粋なものだったので花桜梨は全くそうは思わなかった。

花桜梨はしゃがんで少年の顔を見た。

それはユウの瞳、そのものだった。

少年は立ち上がった。

身長は花桜梨の胸の辺りまで、大体140cm半ばくらいしかないので花桜梨は上目遣いで見られているということになる。

花桜梨は思った。

可愛い…。

花桜梨は衝動的に抱きしめたくなったが、堪えた。

花桜梨は少年に外に出ないように言いつけ学校に向かったがやはり少年の事が心配だった。


学校は普段通りの退屈な授業だったので花桜梨はそのギャップに頭がクラクラしてきた。

帰り道の交差点で行き交っている車にも全く現実感を覚える事が出来なかった。

しかし、自分は夢を見ているわけでもないという意識がある限り、これは現実の出来事だった。

花桜梨が家のドアを開けると、待っていたかのように少年は玄関まで駆け寄ってきた。

そして一気に抱きついた。

「こらっ、って…ぁぅん」

胸に顔を当てて頬擦りされたので微妙にくすぐったかった。

花桜梨はそんな少年を引き剥がした。

「ミュウン」

少年は少ししおらしくなって花桜梨を見上げた。

「大丈夫、貴方が嫌いなわけじゃないの、ただ、ね、家に上がらせて」

そういうと少年は靴を脱ごうとしている花桜梨の腕を引いた。

「ニャッ!ニャッ!」

「手伝わなくていいってば!」


例によってコンビニの袋を鞄から出して花桜梨はリビングの椅子に座る。

そして電子レンジに買ってきたスパゲティを入れて電源を入れる。

スパゲティが規則的に回っている様子を眺めていると少年が椅子を使って花桜梨の高さまで上がり、電子レンジを覗き込んできた。

「食べたいの?」

「ニャ?」

「食べられない事はないと思うけど…」

ピーと電子レンジが鳴り花桜梨はスパゲティを取り出す。

同時に棚から皿を二つ出して自分の、少年の、に分ける。

花桜梨はフォークをどうしようか悩んだが、使えないと思い、自分の分しか出さなかった。

椅子について食べ始める。

少年は一気に顔をさらに突っ込んだ。

「ニギャーーーーーー!」

少年は口を押さえて辺りを転げまわった。

「あ!猫舌!」

少年は舌を出しながら手元の麦茶を一気に飲む。

猫舌以前に顔の周りの火傷といった感じだが。

「ごめんね…忘れてたわ…」

花桜梨は痛そうに口を押さえる少年の頭を撫でた。


花桜梨はまだ口を痛そうにしている少年を置いて、風呂に入ろうとバスルームに入った。

服を脱ぎながら暖かいものが食べられなくなるな、と思った。

明日はおでんを買ってこようと思っていた花桜梨は残念だな、と思った。

そう思いながらブラを外してタオルを取ろうとして腕を棚の上に上げた瞬間、ドアが開いた。

ガラッ。

また、少年だった。

少年は割ってしまったらしい皿を持ちながら泣きじゃくっていた。

花桜梨は一瞬固まってから、その場にしゃがみこんだ。

「ぇぇぇ、えっと…、それは、いいよ、気にしないで!」

「ニャ・・・」

「そのお皿は、うん、どうでもいいの、捨てようとしてたやつだから!」

「ニャ?」

「だから…」

花桜梨は大声を上げまいと思ったが、つい少し大声になってしまった。

「出てって!」

「ニャ!」

少年は割れた皿を持ちながら走ってバスルームからいなくなった。

少年がいなくなると花桜梨はすぐに風呂の中に入った。

「きつく言いすぎたかな…」

お湯に浸かりながら花桜梨は髪をクルクルと巻き、そう呟いた。

別に自分の体が見たくて入ってきた変質者じゃないんだし…。

でも私にも人並みの羞恥心があるし…。

ガラッ。

またまた少年だった。

花桜梨は仕方ないかな、と思いながら振り向いた。

そして再び硬直した。

少年が全く前を隠して入ってこなかったからだ。

昨日服を着せた時に少し見てしまったが、今は…まじまじと見てしまい、目が離せなくなった。

「…(ぽっ)」

花桜梨の熱視線を少年は全く意に介さずに花桜梨の入っている湯船に飛び込んできた。

花桜梨は風呂に入って喜んでいる少年を見て、ユウはずっと真似して入りたかったんじゃないのかな、と思い、しばし自責の念に囚われながら少年の体を洗ってあげたりした――普通に。


昨日と同じように、花桜梨は風呂上りにスポーツドリンクを飲み、PCをつけた。

しかし今日がいつもと違うのは、後ろのベッドで少年がベッドのスプリングで飛び跳ねていることだった。

「ニャン!ニャン!」

少年は天井からぶら下がっている電気の紐が気になるらしく、飛び跳ねて掴もうとしていた。

習性が抜けていないといった感じで見ていて微笑ましく、花桜梨はいつもの半分ぐらいの時間でネットを切り上げベッドの端に座った。

「楽しい?」

「ニ゛ャ・・」

少年は肩で息をしながら首を横に振った。

どうやら気になって仕方がないだけらしい。

花桜梨はかわいそうなので紐を垂れ下がらないように電気を消してから上のほうで固定した。

「これでいい?」

「ニャーン!」

少年は嬉しそうに微笑んだ。

花桜梨も微笑んで

「一緒に…寝る?」

「ゥン?」

花桜梨は自分の発言がかなり微妙な事に気がつき、誤魔化す様に笑った。

「そうよね、昨日だって裸で寝てたんだし、特に気にする事じゃないわよね」

「ゥン?」

「ああ、もう、寝ましょう!」

花桜梨はそういうと布団を上げて寝る体制に入った。

少年も中に入ってきた。

花桜梨は少年の体温がとても暖かく感じた。

11月の寒さの中で、抱き合って寝ることは幸せだった。


次の日は学校の創立記念日で休みだった。

花桜梨は家にいてもやることがなかったので少年と出かける事にした。

少年は帽子を被って黙っていれば特に目立つ事もないと思ったし、何よりも少年の服を買ってあげたかったのだ。

その理由は…ゴニョゴニョがGパンに、ゴニョゴニョゴニョゴニョ…。

…とにかく、緊急事態だったのだ。

少年は花桜梨と出かける事が出来るとわかると飛び跳ねて喜んだ。

二人は10時くらいにショッピング街に向かった。

花桜梨はスカートのような女の子の服をあまり好んで着ないので、普段行っている中性的な服ばかり売っている店に向かった。

少年のサイズは少し小さすぎてあまり種類がなかったが、とりあえずシャツとトレーナーと羽織る服と、Gパンを買ってあげた。

試着室で自分が着せなければならない時に少しだけ母親になった気分だった。

そう思うと花桜梨は他の人にはどう見えているのかということを考え出してしまった。

恋人には歳が離れているように見えるだろうし、親子というには花桜梨が若すぎるからだ。

と、ここまで考えて、結局姉弟で良いと言う事に気がついた。

そんな事を考えながら歩く花桜梨を少年は様子を伺うように覗き込んでいた。


「おい、八重の話聞いたか?」

「聞いた聞いた、外人の子供つれて歩いてたってやつだろ」

「あの子って確か一人っ子よね」

「確かそうだと思ったわ」

「どういう因果かしらね?」

「不純な香りがするよな」

「しかも楽しそうにしてたって言うし」

「わかんねぇな」

「変わってるもんね…」

「でも、その外人の子、本当に可愛かったらしいわよ」

「良いなぁ…」


朝起きた花桜梨はまだ寝ている少年を見つめていた。

少年が息をするごとに布団が上下している。

花桜梨は布団を少しだけ捲って少年の顔を良く見えるようにした。

何度見ても可愛い顔だった。

花桜梨は思わず少年の柔らかい頬を指で突付いてしまう。

柔らかい頬に花桜梨の指が沈んでいく。

花桜梨は何度も頬を突付く。

少年は少しだけ反応し寝返りをうつ。

花桜梨は時計を見て、学校に向かった。



花桜梨は少年のためにシリアル系の食べ物を買って帰った。

昨日のような事は避けたいと言うのもあるし、自分も食べたいと思ったからだ。

花桜梨は少年の喜ぶ姿を想像しながらドアを開けた。

ドサッ。

抱えていたスーパーの紙袋がコンクリートの上に落ちた。

次の瞬間、花桜梨は廊下で倒れている少年の元に駆け寄った。

「ちょっと、大丈夫!?」

花桜梨は少年を抱き上げた。

凄い熱だった。

少年の体は燃えるように熱く、少年は苦しそうに息をしていた。

花桜梨はそのまま抱きかかえて自分のベッドに乗せた。

花桜梨はとにかく体を冷やそうとタオルを濡らしてこようと思い、立ち上がった。

その花桜梨の手を、少年は掴んだ。

「ニャ…」

少年は弱々しく首を振って、花桜梨を見つめた。

花桜梨が何か言おうとした瞬間、少年の体は光に包まれた。

暖かい、太陽のような光だった。

その光はだんだん弱くなり、光が収まると、そこにはユウがいた。

花桜梨はその流れを瞬きすらせずに見つめていた。

そして、元気に花桜梨の元に寄って来るユウを抱き上げた。

「ユウ…私のために…?」

「ニャア!」

元気な声だった。

花桜梨の頬に一筋の涙が流れたが、それは嬉し涙だった。


次の日も花桜梨は大きな紙袋を抱えていた。

中には缶詰がたくさん詰まっていて、いかにも重そうだった。

花桜梨は何回かその缶を落としながら、ドアを開けた。

ユウはいつものように足元にじゃれ付いてくる。

花桜梨は持っていた紙袋を置いて、ユウを抱き上げた。

「いいもの買ってきてあげたよ」

紙袋の中は、キャットフードの缶だった。

ユウは前にそれを貰った事を覚えているのか、嬉しそうに目を輝かせた。

花桜梨は鞄を置くと皿を持ってきて、その上にキャットフードを開けた。

「あんまり食べ過ぎちゃだめだよ、太っちゃうからね」

そういいながら花桜梨はユウの頭を撫でた。

「ゴロゴロ…」

ユウはくすぐったそうに喉を鳴らし、キャットフードに口をつけた。

花桜梨はユウが食べ終わるまで、ずっとしゃがみながらその様子を眺めていた。

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