Part3: ミハル出撃す


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「久しぶりね、ミハル。いや、地球方面軍隊長・館林見晴大佐と呼ぶべきかしら?」

「ううん、きらめき高校時代と同じミハルでいいよ。」

きらめき公国軍の飛行母艦ガウの一室、ここには大気圏突入用の小型艇コムサイで地球に降下してきた詩織とその友人・館林見晴がいた。

見晴は降下してきた詩織を迎えに来ていたのである。

「それにしても、『赤髪の彗星』と言われたあなたが落とせなかった艦とはね。」

頭に作った髪の環っかをいじりながら見晴はモニターに映し出されたひびきの軍の機動戦艦『レジェンド・ベル』の映像を眺め少しだけ愚痴っぽくもらす。

「それは言わないでよ。」

「ふふ、ごめんごめん。…じゃあ『鐘』は私が仕留めてもいいのよね?」

「もちろんよ、ここはあなたの管轄ですもの。…あ、そうそう、その『鐘』は大気圏を突破してきた艦だってことをお忘れなく、ね。」

「分かってる。だから今その点から推測できる戦闘力を部下に計算させてるのよ。」

「さすがはミハルね。でも、これは十字勲章ものであることは私が保証するわ。」

「ありがとう詩織。…これで私もようやく紐緒閣下に一人前であることをアピールできるのね。」
そんな見晴の一言に、詩織はその部屋に飾ってある一つの写真に目を写す。と同時に詩織は突然笑い出した。

「…ちょっと、笑わないで。兵に聞かれちゃうじゃない。」



その頃きらめき領に降下させられてしまったひびきの軍の機動戦艦『レジェンド・ベル』の格納庫では、整備班たちがMSを地上戦に対応させるべく調整を続けていた。

そんな中、Mガンダムの調整をしている響介のところに光が歩み寄る。そして少しだけ体をもじもじさせながら口を開いた。

「ねぇ響介くん、あの、私も…何か手伝えることないかな?」

そんな光の申し訳なさそうな口調に、機体の奥深くに手を突っこんでいた響介はそれを引き抜いて汗を拭いながら光の方を向く。

「ん?ああ、俺は大丈夫だから。それに光はパイロットなんだし、整備は俺たちに任せて今は少しでも体を休めとかないと。」

しかし光はそんな響介の言葉の後もその場を動こうとはしなかった。大丈夫とは言っているが、ちっとも大丈夫そうには見えなかったからだ。

実際のところ、響介は連日の作業でだいぶくたびれている。きらめき領で孤立無援となっているレジェンド・ベル隊はいつ敵襲を受けてもおかしくない状態で、しかも頼りになるのはここの格納庫にあるわずか3機のMSのみ。オペレーターの美帆がちょうどいい濃度でミノフスキー粒子を散布しているとはいえ、肉眼で発見されてしまえばすぐにでも激戦となる。ゆえに作業をいつまでもだらだらとやっているわけにはいかない。整備班はこの影響をモロにうけ、作業を少しでも早く済ませようと最近は不眠不休状態だったのだ。

指揮官である琴子のそんな強攻策に不満の声を上げたクルーも多かったが、響介は琴子の意図を正確に理解しており、これまで文句一つ言わずに作業を続けていたのである。

だが、さすがに体力のある響介も疲労の色が少しずつ濃厚に表れ始めていた。そんな姿を見るに見かねて光は声をかけたのである。

「でも響介くん、すっごく顔色悪いよ。…それにさ、さっきそこで聞いてきたんだけど、響介くんはここまでずっと休まずにやってきてたんでしょ。いくらなんでも無理しすぎだよ。」

ちょっぴり感情的になって言葉をかける光。響介は自分をここまで心配してくれる光に対してぐらっときそうになってはいた。が、そんな本心をぐっと胸の奥にしまいこみ、逆に光に向かって語りかける。

「…今俺ができることってこれぐらいだから。戦場に出て命がけで戦ってる光に、俺は何もしてやれない。だからさ、少しでもこの機体の完成度を上げて、もし光が出撃することがあっても絶対に生還できるようにすること…そう、それが今俺が光にしてあげられる精一杯のことだから。…ま、そういうわけさ!」

そこまで言い終わったところで、響介は作業を再開させた。さすがにちょっと恥ずかしいセリフだと思ったのか、響介は再び機体に向かい作業のペースを少し上げる。

その響介のセリフを聞いた瞬間、光は顔を桜色に染めつつうれしそうな表情を作っていた。そしてちょっとした決意を固め、意図的に自分の方を見ないように作業してる響介に尋ねてみる。

「ねぇ、響介くん…」

「…ん?」

「あのさ、どうしてそんなに私に優しくしてくれるの?」

「え!?どうしてって…」

光の思わぬ質問に響介は一瞬動転し、作業の手を休めた。ふと光の方を見ると、光はやさしそうな表情で、しかし真剣な眼差しで自分の方を見ている。

「そ、それはつまり…俺は…だから、俺にとって光は…」

「(うんうん!響介くんにとって私は?)」

顔を赤くしながらなんとか言葉を搾り出す響介。そして多大な期待を持ちながら響介の次の言葉を待つ光。そんな時だった!

ビー!ビー!ビー!…

艦全体を激しい警報が包む。その瞬間、響介ほか、クルー全体が険しい表情に変化した。

それと同時に、

ドガァァァ!!

「きゃあ!」

「くう!」

物凄い轟音とともに艦が激しく揺れ、バランスを崩した光はそのまま響介に覆いかぶさるように倒れこんでしまう。

「あ、ご、ごめん…」

「いや、俺は大丈夫だよ。そんなことよりこれは間違いなく敵襲だ!光も早くスタンバって!」

「う、うん!」

その言葉より幾分早く光は立ち上がると、急いでMガンダムのコクピットに乗り込む。それとほぼ同時に格納庫に現れた花桜梨と茜も素早く自分のMSに乗り込んでいた。

「索敵急げ!…対空砲火、なにやってんの!?」

ブリッジでは琴子の指示がせわしなく飛んでいた。それと同時にオペレーターの美帆が状況を報告する。

「琴子さん、エンジンの出力が落ちています!このまま航行するのは危険です!」

「く、やむを得ないわね。本艦は現座標位置に固定!MS隊、発進を!」

その指示を受け、美帆が素早く格納庫への通信回線を開く。

「響介くん、MS隊の発進を!」

「了解した!」

「Mガンダムは出せる!?」

「…すみません、まだダメです。他は終わってますので順次発進させます!援護よろしく!」

「分かったわ!10秒間援護射撃をしますので、そうしたら発進させてください!」

「了解!」


カタパルトには既にYガンキャノンがセットされていた。専用のライフル携帯し、いつでも出られるように体勢を低くしている。

そんな風にしてスタンバイしている花桜梨に響介が通信を入れた。

「花桜梨さん、今回はとにかく数が多い!カートリッジを装備させといたけど、残弾数には気をつけて!」

「了解よ!ハッチを開けて!」

ウィィィィィン…

格納スペースの前方が開き、外の戦場の景色が現れる。それと同時に物凄い数の弾丸やらビームやらが土砂降りのように敵に向かっていた。戦艦レジェンド・ベルからの援護射撃により進路を確保しているのである。これで発進直後の無防備なところを狙われることはない。

「Yガンキャノン・花桜梨、いくわよ!」

ゴォォォォォォ!ズキュゥゥゥゥ!!

そのまま勢いよくYガンキャノンが飛び出した。続いて、Sガンタンクがセットされる。

「茜さん、敵の小型戦闘機はすばしっこい。そっちは花桜梨さんに任せて主に火力のある戦車の方を!」

「うん、分かった!Sガンダンク・茜、出ます!」

ゴォォォォォォ!ズキュゥゥゥゥ!!

そしてSガンタンクも飛び出した。


「館林大佐、MSが出てきました!」

「ええ。…ん、2機?白いのがいない。」

その頃、強襲用の小型戦闘機『ドップ』で戦線に出ていた見晴がそれに気づく。

「何か作戦があるというの?…まあいっか、まずは目の前の敵ね。全機、MSを引き離して各個撃破!」

「了解!」

見晴の指示を受けた部隊は小編隊を組み、それぞれがレジェンド・ベル隊のMS同士の間に割って入るように動く。それと同時に別部隊が戦艦を囲み、MSへの援護を断ち切る。それぞれを孤立させたのちに数で圧倒させる作戦だ。


「く、なんて数なの!?…あう!」

見晴の作戦にかかった花桜梨と茜は大苦戦を強いられていた。相手はきらめき軍の地上方面軍のもつ戦車『マゼラアタック』と小型戦闘機『ドップ』。個体の戦闘力はそれほどでもない機体だが、いかんせん数が多い。しかも味方からの援護を断ち切られた花桜梨たちは四方八方から同時に攻撃を受けている形となっており、事あるごとに被弾してしまう。

いかに頑丈なルナ・チタニウム(ガンダニュウム合金)とはいえ、無限に耐えられるわけではない。被弾数が増えるにつれて、さすがの装甲もダメージが深刻化してきた。

「ダメ、これじゃもたない!光さん、響介くん、まだなの!?」


一方その頃戦艦レジェンド・ベルの格納庫では、ようやく調整の終了したMガンダムへの装甲板の取り付け作業が終わっていた。

「よし、準備完了だ!…っととと、そうだ光、これを…」

「ん、これは何?」

コクピットブロックのハッチを閉めようとしていた光に、響介は慌てて一枚のディスクを渡す。

「お守りさ。怖くなったらインストールしな。」

「うん、ありがと!」

光は早口でお礼を言うと、素早くMガンダムをカタパルトにセットさせる。

「Mガンダム・光、いきま〜す!」

ゴォォォォォォ!ズキュゥゥゥゥ!!

そのまま光は勢いよく戦場へと向かっていく。そして出会い頭にこちらの編隊を崩しているマゼラアタック部隊にビームライフルを連射した。


ズキューン!ズキューン!

ドォォォォ!!

半ば不意打ちのような形で撃墜されたマゼラアタックの一部隊。突然のMガンダムの襲来にきらめき軍は統率が乱れてしまう。

「第二、第三ドップ部隊、私に続け!『白い奴』に集中攻撃よ!」

この事態に対応すべく、見晴はついに自ら編隊を率いて光の乗るMガンダムに向かった。味方の援護に向かおうとしていた光はそれに足止めを食らってしまう。

「邪魔しないでよ!」

ババババババ!!

ドォォ!!

叫ぶと同時に光は頭部のバルカンを発射する!装甲の薄いドップはこの掃射により2〜3機はラクに撃墜されていた。

「このぉ!」
味方がやられたのを見て見晴の表情も少し表情がマジになる。第二部隊が正面から相手をしている隙に小回りがきくのを利用してMガンダムの背後に回りこみ、バックパックの部分めがけて連装ミサイルを発射した。

きゅぴーん!


その瞬間、光が異様な気配を感じ取った。全身が自分に警告してるような感じである。そして次の瞬間、光は自分の背後から狙っているミサイルの弾道をイメージした!

「え!?見える!?」

気がつけば機体を素早く左に移動させ、死角からの攻撃をみごとなほど完璧に回避していた。

「そんな!」

決定打ともいえる攻撃を完全に回避され、見晴も困惑の表情を隠せない。それは部隊全体が同じであり、Mガンダムの予想外の動きに部隊は隊列が乱れてしまっていた。

「そこ!」

その隙を光は見逃さない。そんなドップ部隊にさらにバルカンを掃射。あっというまに見晴機を残してこの小隊二つは全滅してしまっていた。
それでも見晴はあきらめない。ほんの少し体勢が崩れたMガンダムに向かい半ば特攻のような形で向かっていく!


「このバケモノめ!落ちろ!落ちろぉ!!」

「やらせるか!」

そんな見晴のドップに光もビームライフルを放つ。だが見晴はそれを左翼に僅かに被弾しながらもMガンダムに向かっていき、機銃をその装甲に叩き込む。そして両者はニアミスさせながらすれ違った。

「や、やるぅ!」

機銃をまともに喰らいはしたがびくともしないMガンダム。だが見晴のドップはわりと致命傷に近く、戦闘の継続は困難になっていた。

そんな中、見晴を援護すべくさらにドップ部隊が数機現れた!

「新手!?マズイ!」

今攻撃されれば格好の的になる、そう判断した光はさすがに少しあせりだした。だがその時、

ドォォ!

援護に来たドップ部隊が爆発した。見るといつの間にやら花桜梨のYガンキャノンと茜のS
ガンタンクがこちらに向かっている。最初に光が出撃したさいの奇襲により編隊を崩されたマゼラアタック部隊はその後花桜梨と茜の連携の前に壊滅していたのだ。そして光が集中攻撃を受けていると判断した花桜梨たちはそのまま光の援護に入ったのである。

「ありがとう、花桜梨さん!茜さん!」

「ううん、こちらこそ。…光さん、早く隊長機にとどめを!」

「蛇の頭を叩いたらこっちのもんだよ!」

「うん!…ようし!」

そのまま光は見晴機に向かって追撃を開始する。

「向かってくる!?…それなら、こっちの陣営におびき寄せてガウの一斉掃射で!」

「逃げる!?待てぇ!」


戦線からやや離脱した光は見晴機を追っていた。

「見つけた!」

そして光は見晴のドップに向かっていこうとする。そのとき、

「そこのMS、戻れ!向こうにはガウが構えてる!」

「え!?」

振り返るとそこには一機の補給艦『ミデア』が来ていた。それは素早く光のMガンダムの前に回りこみ、進路を塞ぐように現れる。



「…というわけで、レジェンド・ベルは海上に抜けてジャブローをめざせとのことです。それとこれが補給物資の目録です。」

ミデアに乗って現れた補給部隊の士官・九段下舞佳はレジェンド・ベルの格納庫にてそれを艦長の琴子に渡す。

「ありがとうございます、九段下中尉。…ところで、ここにある『コア・ブースター』とそのパイロットとは?」

そんな琴子の言葉と同時に、一人の華奢な少女が現れた。

「本日付でレジェンド・ベル隊に転属になりました、野咲すみれです。よろしくお願いします。」

挨拶と同時に深く頭を下げるすみれは、それと同時にクルーの方へと歩いていった。…と同時に、響介の前で立ち止まり、笑顔を作って手を差し出す。

「あなたは整備班の方ですね。やっかいなものが増えてしまいましたが、よろしくお願いします。」

「い、いや…こちらこそ、よろしく…」

そのまま差し出された手を握り、少々照れた表情を見せる響介。その様子を見ていた光は膨れっ面を作りながら響介を睨みつけた。

「な、なに怒ってんだよ光?」

ワケも分からず言葉を出す響介。そして次の瞬間、そんな響介の足を光は思い切り踏みつけた!


「あいってえ!」

「フンだ!」

そしてぷいっとそっぽを向き、片足を押さえてぴょんぴょん跳ねている響介を尻目に光は奥へと下がっていく。

「そ、そういえば九段下中尉、これって『コアファイター』を武装強化しただけのものですよね?」

涙目になりながらも響介はなんとか平然を取り戻し、痛みを紛らわすかのように舞佳に質問をした。

「そうよ。まあ間に合わせと言われればそれまでだけど。今はひびきの連邦だってガタガタなんですから。…ところで響介くん?」

「…はい?」

舞佳は響介の近くにまで歩み寄り、小さく耳打ちした。

「(いいこと少年、ここのパイロットはかわいいコばっかりだけど、早まっちゃダメよん☆)」

「は、はあ。」

そんな言葉にきょとんとしている響介に背を向け、舞佳は立ち去っていった。




一方その頃、きらめき軍地上部隊の指令・館林見晴はみずからの屋敷にてしばしのくつろぎの一時を過ごしていた。そのバルコニーには見晴と一人の男の姿がある。

「ミハル…前線に出るお前を止めはしない。だけど…」

「ううん、ありがとう好雄くん。けどね、ここで『鐘』を落とせれば私も紐緒閣下に、いや、伊集院に対してりっぱに顔向けできるようになるの。だから、その時こそあなたと…」

「…ああ。だけど、もし聞き届けてもらえなかったら?」

「そのときは…私、『きらめき』を捨てるわ…」

この様子を少し離れたところで詩織が聞いていた。

「戦場でラブロマンスか…あなたらしいわね、ミハルお嬢ちゃん。」

そう言いつつ、詩織はグラスを傾け、その中身を一気に喉に流し込む。そのとき!

「館林大佐!…とと、申し訳ありません。」

突然きらめき軍の制服を着た男が見晴と好雄の2ショットの場面に割り込んできた。そのことに対し、兵は素早く詫びをいれる。

「よい。で、どうしたの?」

「は!偵察機が『鐘』を発見いたしました!」

「…わかったわ。ただちに出撃します!」

見晴は半ば兵を追い払うように早口でまとめ上げ、再び好雄の方を向く。

「じゃあ、行ってくるね。」

「わかった。ご武運を!」

そんな一言をかわし、見晴はバルコニーから屋敷の奥の方へと向かっていった。



「琴子さん、敵機が迫ってきます!」

敵機を補足したオペレーターの美帆が琴子にそれを告げる。海岸を目指していたレジェンド・ベルだったが、運悪く旧市街地上空で敵に補足されていた。

「く、見つかった!?こんな敵地のど真ん中で渡り合えば地の利がある分こっちがかなり不利か…ん?美帆、前方に見えるのは何?」

そんな一言と共に琴子が前に見える半壊したドームを指差す。

「全天候型の野球場のようですが…」

「…よし、純一郎くん、あそこに本艦を入れて隠れるのよ。できる?」

「はい。」

純一郎は慎重に操舵をし、ドームの中にレジェンド・ベルをすっぽりと入れた。と同時に着陸し、メインエンジンを停止させる。

「…よし!総員、合図があるまで物音一つ立てないこと、いいわね!」


「『鐘』が見つからないですってぇ!」

レーダーで補足可能な地点に到達したと同時に反応が消えてしまったことに苛立つ見晴は、自軍の母艦ガウのブリッジにて大声を出していた。

ミノフスキー粒子は戦闘濃度ではないが、レジェンド・ベルはメインエンジンを停止しているためレーダーにひっかからない。加えてそれはドームの影に隠れていたため肉眼でも確認できない。

「そう遠くには行ってないはず。とすれば、どこかに隠れてる?…いいわ、爆撃開始!」

とうとうシビレをきらした見晴はガウにその市街地の絨毯爆撃を命令した。

ガガガガガガガガガ!

既に崩壊していた街がさらに荒廃していく。街全体が瓦礫の山と化してもなお、レジェンド・ベルは動きを見せなかった。

その時、格納スペースにいた詩織がブリッジに通信を入れた。

「見晴、こうなればMSで直接探すわ。」

「やってくれるの、詩織?」

「ええ。今はあなたの部下ですから。」

「そうかもしれないけど、詩織はもともと外井中将の直属でしょ?」

「友人としてあなたの手助けをしたいだけよ。ハッチを開けて!」

「分かった。発見したらすぐに連絡して。ガウの一斉掃射でカタをつけるわ!」

その言葉と同時にガウの後部が開く。自分専用の赤いザクに乗ってスタンバイしていた詩織が降下の体勢に入った。

「勝利の栄光をあなたに!」

詩織はそのまま部下数名と同時にガウから降下していく。


「爆撃がやんだ?」

その頃、レジェンド・ベルの格納庫では響介とMSのパイロットたちが息を潜めていた。

「うん、そうみたいだね。」

響介の一言に光が反応する。だが同時に花桜梨が暗い表情を作って話しかけてきた。

「…でも、爆撃がやんだってことは、直接探してるってことだよね。」

「そうだな。そうなればここが見つかるのも時間の問題か…」

そこに、ブリッジから格納庫へ通信が入った。

「光、すぐにMガンダムで出撃して!」

どうやらブリッジも同じ考えらしい。光はちょっと気合の入れた表情を作って立ち上がると、琴子に返事をする。

「はい。捜索している敵軍をここから引き離すんですね?」

「そうよ。あと、光以外のパイロットもコクピットで待機。いつでも出られるようにしておいて。」

「了解!」

花桜梨、茜、すみれもそんな返事と同時にそれぞれの機体に乗り込む。

と同時に、光は出撃していった。


ズキューン!

バババババ!

市街地では光のMガンダムと詩織率いるザク部隊が交戦を続けていた。ビームライフルとマシンガンの音が荒廃した市街地に鳴り響く。

「そこぉ!」

ズキューン!

「うあああ!」

チュドォォ!!

だが、この戦いはほぼ一方的だった。崩壊したビルの陰から素早く姿を現した光のMガンダムはそのままザクに狙撃、あっという間に詩織の赤いザクを残して全てを撃墜していた。

その後詩織と光はほぼ一騎打ちのような形となっていた。

「そこだ!」

ズキューン!

遮蔽物の陰から見えた赤いザクに向かってビームライフルを撃つ光。だが、それは相手のMSに当たることなくビルに直撃する。

そして体勢の整わない光に対して詩織がザクマシンガンを撃つ。

バババババ!

「きゃあ!」

なんとかシールドでそれを防いだ光だったが、再び体勢が崩れてしまった。この一騎打ちはほとんど詩織の一方的な展開である。

「当たらない…どうすれば…そうだ!」

そのとき光はようやく思い出した。響介からもらってあった一枚のディスク、それを素早くインストールする。

ギュウウウウン…

機体が突然一際明るくなり、ターゲットが自動で詩織のMSの補足を始めた。それはワンテンポ早くターゲットの動きをつかみ、光に目標を告げる。狙いがやや難しくはなったが、反射神経があればやっていけそうな感じだ。

「!! 当たれぇ!!」

コンピューターが嵐のように目標の位置の変更を告げる中、光はようやくその速さに追いつき、トリガーを絞った。

ガァ!!

「あう!」

放たれたビームは詩織の乗るザクの左側にヒット!残念ながらそれは直撃ではなくシールドを破壊する程度にとどまったが、ついに光が詩織の動きを捉えた瞬間だった。

ディスクの中身は戦闘用プログラムの修正版だったのだ。

「MSめ、やるようになったわね!」

軽く舌打ちした詩織はその後Mガンダムの妙な動きに気づく。

「私を誘っているの?…そうか!だとすれば『鐘』はMガンダムとは逆方向にあるってことね。」

少し唇を吊り上げた詩織は急いでガウに通信を入れた。

「見晴、聞こえる?」

「ああ、詩織、待ってたよ。」

「見晴、敵MSが母艦に帰っていくよ!きっと『鐘』はそのMSの向かう先に!」

「よし!ガウの高度を下げてあの白いのを追跡する!」


「琴子さん、ガウが降下してきました。Mガンダムを追っているようです!」

戦艦レジェンド・ベルのブリッジでは、この動きを補足していたオペレーターの美帆が琴子にガウの動きを告げる。

「光がうまくひきつけてくれたのね。…よし、純一郎、浮上させて!合わせてMS隊全機発進!」

琴子の指示を合図に格納庫で待機していた花桜梨、茜、すみれが出撃する。と同時にメインエンジンが始動し、レジェンド・ベルは徐々に高度を上げた。

「…今よ!全砲門開け!一斉発射!一気にガウを撃沈させるのよ!!」


ズドドドドドドドドドドド!!!

「な、う、後ろからですってぇ!?」

突然見晴は自分の乗るガウが激しくぐらついた。後ろから凄まじい弾幕砲火を浴びているのだ。

そしてさすがの巨大空中空母もしだいにバランスを崩し始めた。外装は既にボロボロになり、艦全体を満足に動かすこともできない。

「く、もう上昇も回避も不可能みたいね…180度回頭よ!ガ、ガウを『鐘』にぶつけてやる!!」

そのままガウは向きを変え、レジェンド・ベルに向けて一気に前進する!…が、レジェンド・ベルの一斉射撃は凄まじく、加えて艦は既にボロボロ…とてもじゃないがレジェンド・ベルまで到達することはできそうもない…
そんな中、ガウに一つの通信が入った。



「ふふふ…ミハル、聞こえていたら、あなたの生まれの不幸を呪うがいいわ。」

それは前線にいるはずの詩織からであった。見晴はこれに仰天し、すぐに応対する。

「何?不幸ですって!?」

「そう、不幸よ。」

「し、詩織、あなたは!」

「あなたはいい友人だったけど、あなたの一族がいけないのよ…フフフ…アハハハハ!」

「詩織!はかったわね!詩織ぃぃぃぃ!!」

たちまち見晴の表情は怒りと悔しさが入り混じったものへと変化していく。

「私だって伊集院一族の人間、ただでやらせはしないわ!」

その後見晴はみずから操舵用のハンドルを握り締め、戦艦レジェンド・ベルへと向かっていく。

「きらめき公国に栄光あれぇぇぇ!!!」

そしてついに、ガウは堕ちた…が、なんと奇跡的にブリッジの部分だけは残っている。



「惨めね…私はここで死ぬはずだったのに…」

レジェンド・ベル隊に拘束された見晴は、残骸となったガウを眺めつつポツリとつぶやく。全身に怪我をしつつも生き延びることができた見晴だったが、自らが保有する軍も無くしてしまい、途方にくれているのもまた事実だった。

「それは違うだろ、館林大佐。」

そんな見晴に響介が一枚の写真を渡す。

「これは…」

「ブリッジに突入したときにちょっとね。これ、あなたの恋人かい?だとすれば、この人と支えあって生きていけばいい。もう戦争なんか忘れてさ。」

そう言って笑顔を見せる響介に、今度は逆に見晴が質問する。


「…どうして…どうして私にここまでしてくれるの?」

それに対する響介の答えは至極単純なものだった。

「あのとき、あなたはいやにアッサリ光の陽動にひっかかった。そこがちょっと気になってたんだけど、すぐに答えが分かったんだ。あなたは姉…じゃなくって、詩織にはかられたんだろ。戦術に優れる詩織の策に簡単にしてやられたあんたは、きっと優しすぎる人なんじゃないかなって思ってさ。そういう人って明らかに軍人には向いてないからだよ。」

そこまで聞くと、見晴の目から涙が流れ出した。

「うん、うん…分かっていたのよ、それは。けど、私は伊集院の一族。この運命からは逃れられなかったのよ!」

そして見晴はそのまま崩れ落ち、両手で顔を塞いで嗚咽した。そんな見晴の前を琴子が仁王立ちする。

「きらめき公国地球方面軍指令・館林見晴大佐はレジェンド・ベル隊が討ち取った…そう打電したわ。もうあなたは公式では死亡しているのよ。…これを機にあなたはその恋人とともにどこか遠くに行って、戦争のことは忘れて静かに暮らしなさい。」

そんな琴子の言葉と同時に、レジェンド・ベル隊のクルーは全員が笑顔を作る。そんなクルー達の表情に触発され、見晴は元気よく立ち上がった。

「…勝てないわけね、これじゃ。」

そう言いつつ、見晴はいずこへと去っていった。そんな姿を見送りせず、レジェンド・ベル隊はすぐに出発し海岸沿いを目指す。



それから数日後、きらめき公国に館林見晴の訃報が飛び回った。政府広報から流れているところを見ると、どうやら本当は生きていることは誰も知らないようである。

そんな中、その追悼の儀式のシメに、とうとう大きな人物が現れた。

「こ、琴子さん…こ、これは!」

そう言って美帆はきらめき公国一帯に放送されている映像をメインモニターに回した。

その映像に、ブリッジクルーはおろか、同じくブリッジにいたMS隊のパイロット達や響介も釘付けになる。

「ね、響介くん…この人って…」

「ああ、間違いない。紐緒結奈…きらめき軍の総帥。会戦時、廃コロニー『アイランド・イフィッシュ』を地球に落とし、何十億もの人口を失わせた張本人さ。」

「こ、これが、私達の敵!?」

「…そういうことね。」

その映像を見たクルーやパイロットたちが口々に語りだす。そんな中、映像では結奈が壇上に上がり、その場に集まったきらめき公国の国民たちを前に力強く語り始めた。


『我々は…一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!
ひびきの連邦共和国に比べ、我がきらめき公国の国力は三十分の一以下である。にもかかわらず、今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか!…諸君!我々きらめき公国の戦争目的が、正義だからだ!これは諸君らが一番知っている。我々は地球を追われ、宇宙移民にさせられた。そして、一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がったひびきのを支配して50余年。宇宙に住む我々が自由を要求して何度ひびきのに踏みにじられたか!きらめき公国が掲げる人類一人一人の自由のための戦いを神が見捨てるわけはない!!わたしの従姉妹…諸君らが愛してくれた館林見晴は死んだ!!なぜだ!!?

新しい時代の覇権を我ら選ばれた国民が得るのは必然である。ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならぬ。我々は過酷な宇宙空間を生活の場としながらも共に苦悩し、練磨して今日の文化を築き上げてきた。かつて、キラメキ・フジサキは人類の革新は宇宙の民たる我々から始まると言った。しかしながら、ひびきの連邦のモグラどもは自分たちが人類の支配権を有すると増長し我々に抗戦をする。諸君の父も!子も!そのひびきのの無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!この悲しみも怒りも忘れてはならない!それを、見晴は…死をもって我々に示してくれた!我々は今、この怒りを結集し、ひびきの軍にたたきつけて初めて真の勝利を得ることができる!この勝利こそ、戦死者すべてへの最大の慰めとなる!国民よ!悲しみを怒りに変えて、立てよ国民よ!!我らきらめき国国民こそ選ばれた民であることを忘れないで欲しいのだ!優良種たる我らこそ、人類を救い得るのである!!ジーク・キラメキ!!!』

映像からはきらめき公国の国民たちが『ジーク・キラメキ!』を連呼する状況が映し出されている。

と、その時、琴子が突然艦長シートから立ち上がってその映像に向かって叫びだした。

「何を言うの!?伊集院の名を利用し、地球圏征服を企む女が何を言うのよ!!?」

おそらくきらめき軍は実は見晴が生きていることはつかんでいるのだろう。だがそれを隠蔽し、逆にそれを利用して戦意や士気を高めようとする…残酷なやり方ではあるが、それが戦争…

ブリッジで映像を眺める少年少女たちは複雑な気持ちを抱えてそれを見ていた。

レジェンド・ベル隊の命がけの脱出劇はまだまだ続く。


to be continued…

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